『ルルーシュ。元気にしてる?』
「何言ってるんだ。朝まで会ってたじゃないか。」
『そ、それはそうだけど…ちょっとでも時間がもったいないんだ。』
受話器の向こうから聞こえるスザクの声。
緊急の連絡用に渡されたスザクの携帯。
「そっちはどうだ?今日は主要国首脳会議があったんじゃないのか?」
『あぁ。それなら大丈夫。ナナリーも扇さんもよくやってくれてるから。』
こんなにも早くに使われるとは思わなかった。
ゼロは多忙の身だ。それも仕方ないか。
『ねぇ、ルルーシュ。会いたい。』
「スザク…会議が終われば会いに来ればいい。」
『そんな…明後日まで我慢できないよ。』
明後日か…。
「でも今の俺はスザクの声が聞けるだけで幸せだと思える。」
『そうだよね。うん。贅沢言ってちゃいけないね。ねぇルルーシュ?」
スザクの甘えるような声にルルーシュも優しい声で応える。
「なんだ?スザク。」
『今日はもうちょっと話してていい?』
ルルーシュは幸せを噛みしめながら「あぁ。」と答えた。
「なぁスザクはどう思う?」
『……ルルー…シュ…むにゃ、むにゃ……』
受話器の向こうから聞こえるのはおそらくスザクの寝言だろう。
「スザク?」
念のために名前を呼んでみるが返事が無い。
「寝たのか。忙しいのに無理するなよ。おやすみ。」
反応が無いことを確かめると小さな声で
「……愛してる。」
とだけ呟いて電話を切った。
「さて俺もそろそろ寝るか。」
次に会える明後日の事を考えながらルルーシュも眠りについた。
その頃スザクはとても幸せな夢を見ていた。
小さい頃から嫌われていた毛並みの綺麗な黒猫がやっと自分から擦り寄ってきてくれた。
そして猫なのに「愛してる」と呟いてニャーと鳴くのだった。
「ありがとう。ありがとう…。」
何故かスザクは猫にありがとうと感謝の言葉を述べた。
その頬には一筋の涙が輝いていた。
次の日ルルーシュは朝からバタバタしていた。
明日の準備をしなければならないから。
外へ買い出しへ出るためにかつらに帽子、眼鏡をかけて変装も完璧。
当時2人に気づかれないように作っておいた隠し扉を開けお金を取り出す。
「まさか今となって役に立つとはな…」
ルルーシュはひとりごちた。
準備も整いいざ買い出しへと外へ出た。
「なんだ?ルルーシュ。お前はそれで変装したつもりなのか?」
ほどなくして路地の真ん中で声を掛けられた。
「C.C.か。完璧な変装じゃないか。」
「ほ〜う。お前はまだ分かっていないようだな。変装とは…」
C.C.が鞄から何かを取り出した。
「こういうのを着るのがベストなのだ。」
じゃーんと取り出したのはふりふりのドレスに長髪の女性用のウィッグだった。
「は?」
呆気にとられルルーシュは口を開けたまま目を見開く。
「どうだ。着るか?」
「はッ!馬鹿か!そんなの着たら余計に目立つに決まってるだろう!」
ルルーシュは意識を取り戻すとC.C.に抗議する。
「面白くない男だな。枢木はきっと喜ぶぞ。」
「何を言ってるスザクはそんな事じゃ喜ばない。」
と言いつつ過去の経験からいくと喜ぶスザクの顔が頭を過ぎった。
「まぁいいさ。喜べ。これはお前にやる。」
「必要無い。遠慮しておく。」
「相変わらず強情だな。素直に貰っておけ。さもなくば…」
「な、なんだって言うんだ?」
C.C.の悪だくみを考えている時の顔にルルーシュは僅かにたじろぐ。
「これを枢木に送りつけてやる!どうだ?」
ルルーシュの頭の中で何通りもの最悪の事態が駆け巡る。
「C.C.。有り難く受け取っておく。」
「最初からそうすればいいんだ。ところでへんてこりんな変装でどこへ行くつもりだ?」
「へんてこりんは余計だ。これから買い出しへ行くんだ。」
ルルーシュはC.C.から受け取った服を自分の鞄へと詰める。
「あぁ、明日は奴のあれだったな。」
「覚えていたのか?」
ルルーシュは意外そうな顔をしてC.C.の顔を見つめた。
「上手いものが食べられるからな。」
「来るなよ。絶対に!」
ルルーシュは警戒心を露わにC.C.を牽制する。
「私だってそこまで野暮じゃないさ。」
「そうか。ならいい。俺は先を急ぐから行くぞ。」
「だが…今日ならいいんだろう?手伝うぞ。」
ルルーシュに有無を言わせないとばかりに先に歩き出した。
「邪魔はするなよ。」
ルルーシュはC.C.と並んで店へと向かった。
花屋に果物屋にスーパーとはしごして両手いっぱいに買い込んだ。
「ほとんどお前のお菓子じゃないか。少しは手伝え。」
「私はか弱い女の子だぞ?荷物持ちは男の仕事と昔から決まっている。」
「何を意味の分からない事を…」
帰り道で言い合いをしながらも二人で部屋へと帰って来た。
「じゃあ私はお菓子を食べて出来上がるのを待つとしよう。」
「あぁそうしてくれ。静かで助かる。」
ルルーシュはC.C.が大人しくベッドでごろごろしているのを確認すると作業へと取りかかった。
昼食は外でC.C.と済ませてある。今晩の夕食と明日の料理を準備するだけだ。
ルルーシュは手慣れた手つきで料理を完成させていく。
「ふぅ…ひとまずこんなものか。」
ルルーシュは目の前に並ぶ料理に満足そうに笑みを浮かべた。
メインは明日もう一度温め直せばいいし、前菜は明日調理だ。
ケーキはもう焼いてある。
今最後の料理が焼き上がった。オーブンからいい匂いが漂う。
「ルルーシュ。腹が減ったぞ。」
その匂いに釣られてC.C.がベッドから出てきた。
「まったく料理に何時間かけているんだ。私の存在を忘れるんじゃない。」
途中で暇になったC.C.がルルーシュへちょっかいをかけたがことごとく無視されていた。
「忘れて無いさ。ほら。」
「フッ、さすがルルーシュだな。いい焼け具合じゃないか。」
目の前に出された焼きたてのピザにC.C.は瞳を輝かせた。
「お前がいない間美味しいピザを探すのに苦労したぞ。どこぞの店にレシピを残していけ。」
「無理言うな。俺のより美味しい店なんてたくさんあるだろ。」
ルルーシュはC.C.のピザ狂にうんざりしたように言う。
「いや。無い。お前のピザが私の口には一番合うんだ。」
「分かった、分かった。そこまで言うならレシピ書いとくから誰かに頼んで作ってもらうんだな。」
「分かればいい。頼んだぞ。」
ピザを頬張りながらC.C.は満足気に微笑んだ。
二人で夕食を済ませルルーシュは朝からの疲れが出たのかソファに座ったまま寝てしまった。
そこへ携帯が着信を告げる。
「おい!煩いぞ、ルルーシュ!起きて電話に出ろ!!」
テレビを見ながらC.C.はルルーシュを怒鳴る。
「全く…ん?枢木か…」
全く目を覚ます気配のしないルルーシュを余所にC.C.は携帯を覗き着信の相手を確かめる。
「なんだ!煩いぞ!!」
喧嘩腰にスザクの電話に出た。
『…ッ!?その声はC.C.?僕はルルーシュにかけたんだけど?』
「私で悪いか?」
『悪いに決まってるじゃないか!ルルーシュは?』
「あぁ…奴なら疲れて眠ってるさ。」
携帯の向こうで落胆した様にスザクがため息をつく。
『そうなの?で?二人で何してたのさ。』
「それは言えないな。私たちは共犯者だからな。」
『僕も仲間に入れてもらえたんじゃなかったの?』
「ハッ。あれだけで仲間になれたと思うな。とにかく明日はここへ必ず来るんだな。」
『行くからって伝えて…
ブチッ…ツーツーツー。』
C.C.は面倒くさそうに通話を切った。
「お前がこれ程頑張ったんだから奴が来ないと可哀想じゃないか。」
C.C.はソファで寝息を立てるルルーシュの頭を撫でた。
「また迎えに来る。レシピを忘れるな。」
C.C.はそれだけ言い残して部屋を後にした。