キューピッドの日当日。

『おッはよ〜ございます。今日は3年生卒業イベント!キューピッドの日で〜す。』

朝からミレイの元気な声が学園中に響き渡っていた。

『こほんッ。えぇ〜では、説明しまぁす♪机の上に置いてある帽子を皆被ってねッ!女子はピンク、男子はブルーね。』

生徒達は机に置かれていたハート形の帽子をミレイの指示通りに被った。

『ルールは簡単ッ!カップルになりたい相手の帽子を取って自分の帽子と交換して被るだけ。』

生徒達がざわめき立つ。
皆、それぞれターゲットに狙いを定めているようだった。

『制限時間はお昼休みのチャイムまで。じゃあ、スタートの合図は我が生徒会副会長のルルーシュ君にお願いしまぁすッ。』

「えッ!?俺ですか?」
「ほら、早くしなさいよ。皆待ってるんだから!」
「会長覚えておいて下さいね。」

ルルーシュはミレイを軽く睨みつけ、マイクを手に持った。

『にゃ〜』

「「「きゃ〜」」」

学園のいたる所で女子の黄色い悲鳴が響いていた。

「ルルーシュ、可愛い。」

もちろんジノもその一人であった。

「さぁ!ルルちゃんも逃げるのよッ!」
「えッ!ちょ…会長?」

ルルーシュは生徒会にいれば安心だと高をくくっていたのだが、ミレイに追い出されてしまった。

『ここで特別ルールの発表で〜す。生徒会副会長ルルーシュ・ランペルージの帽子を私の所へ持ってきた部には来月の部費を5倍にしまぁすッ♪』

「な、何ッ!!」

くそッ!油断していた。
会長がイベントで俺をおもちゃにしないはずが無かった。
さっきの放送で俺がクラブハウスにいる事はバレている。
早くここから脱出しなければ…

「「ルルーシュ(先輩)!」」

イレギュラーに焦るルルーシュに二人の姿が映る。

「ジノにスザク!まさかお前らまで…」
「ひどいなぁ…君が困ってるんじゃないかって助けに来たのに。」
「そぉだぜ。先輩!ほら、掴まって私が今日は先輩の騎士だから。」

ジノが一足先にルルーシュの手を取り走り出す。

「ちょ!ジノ!僕が護るんだから。ね?ルルーシュ?」

そこで逆の手をスザクに掴まれルルーシュは二人に腕を引っ張られる格好になる。

「お前ら…痛いッ!」
「あぁッ!ごめん!ルルーシュ。」
「スザク、手を離せよ。」

痛がるルルーシュにスザクは慌てて手を離した。

「スザク…お前に頼みがある。俺の代わりにナナリーを護ってくれないか?今はまだ生徒会にいるんだが…いつどんな危険があるか分からないからな。」
「あ、あぁ!分かったよ。そういう事なら…ジノ、ルルーシュを頼んだよ。」
「おぅ!任せとけって!」

ジノはルルーシュの手を取ると再び走り出した。

ルルーシュが誰よりも何よりも大切にしているナナリーを任されたのは嬉しいんだけど…

「ちょっと複雑だな…」

誰もいなくなった廊下でスザクは一人呟いた。






「ジ、ジノッ!ま、待ってくれ!」
「先輩?でも、追い付かれちゃいますよ!」
「分かってる…だが…」

ルルーシュの息は上がっていた。
二人の身長差を考えればコンパスも違う訳で…いやもとより体力的にも大きな違いがあるため、ルルーシュはジノについていけなくなっていた。

「ジノ、このまま真っ直ぐ南に進み2つ目を東に曲がった所へ。誰も使っていない教室がある。そこへ行こう。」
「了解!任せろ!」

二人はまだ人が集まらないうちに身を隠す事にした。

「どこだ!どこに行った?」
「ルルーシュく〜ん。どこ〜?」
「ん?あっちがにおうぞ!」

各部が総出でルルーシュを探していた。

「行ったようだな…」

ルルーシュは小さく呟いた。

「ミレイっていっつもあぁなの?」

ジノも小声でルルーシュに話掛ける。

「あぁ…俺をおもちゃにして楽しんでるさ。付き合わせて悪いな。」
「いいや。私は追い掛けるより逃げる方が楽しいから。」

何よりルルーシュと一緒なのが嬉しかった。
いつも授業や軍務があってお昼休みと放課後ちょっとしか一緒にいれないルルーシュと長くいられるのだ。
嬉しくないはずがない。

隣の教室のドアが開く音がした。

「「ッ!」」

ルルーシュとジノは息を飲む。

ガラッと二人がいる教室のドアが開いた。

「いないかぁ〜どこ行ったんだろ?」
「この辺りの教室が怪しかったんだけどな〜」
「よしッ!次!」
「「はいッ!」」

野球部員が教室から出て行った。

「ここも危ないな…」

いくら大きいといえロッカーの中に二人して入っているのは窮屈だった。

「35分…予定よりも5分早いがそろそろ次へ行くか?」

至近距離でルルーシュに見つめられジノは固まった。

やばい…この距離!
ルルーシュからいい匂いがするし…
上目使いの瞳が妙にエロい。

ジノは自分と戦っていた。

「ジノ?どうした?」

黙り込むジノを不思議に思ったルルーシュは顔を覗き込んだ。

うッわ!!やばい!やばいって!!

「つ、次に隠れられそうな場所あんのか?」

キスしたい衝動を何とか押さえ込みジノは顔を反らした。

「あぁ、少し遠いが…管理塔の地下に潜り込めば一般生徒は入り込めないはずだ。」
「了解!じゃあ、ルルーシュ先輩は私に掴まってて!」
「ほわぁッ!」

ジノは勢いよくロッカーを開けるとルルーシュをお姫様抱っこして走り出した。

「ジ、ジノ!」
「大丈夫。顔埋めてればバレないから。この方が速いし安全だろ。」
「う…ッ!仕方ない。では、俺の指示に従え。」
「イエス、マイロード。」

ジノは赤面しながら抱き着くルルーシュに笑みを浮かべると一目散に走り出した。






「もぉ〜どの部もてこずってるわね〜」

生徒会室でミレイは各部に指示を出しながら呟いた。

「スザクぅ〜何か聞いてないの〜?」
「いや、僕はナナリーの保護を頼まれただけだから…」

スザクはミレイから瞳を反らした。

「はっは〜ん。さてはジノね!」

ミレイは瞳を輝かせた。

『皆の者〜ッ!ルルーシュ・ランペルージはジノ・ヴァインベルグと行動している可能性が高〜い!よって、標的にジノも追加!!』

「お兄様大丈夫でしょうか?」
「ナナリー…きっと大丈夫。ジノが一緒だから。」

心配そうなナナリーを安心させるようにスザクは手を握る。

「はい。スザクさんを信じます。」
「ありがとう。ナナリー。」

でも、相手が会長だからなぁ…とスザクは心の中で呟いた。






「会長ッ!そんなにしてまで俺を捕まえたいのか!」

放送をジノに抱えられた状態で聞いていたルルーシュはうんざりして呟いた。

「ミレイは相変わらず鋭いなぁ〜遊びも全力だな。」
「のんきに言ってる場合か!とにかくお前は目立つんだから…」
「「ジノさ・ま。」」

そう言っている間に目の前には水着姿の女生徒達が立ちはだかっていた。

「おッ!何々?これってトラップ?誘惑されちゃってるよ。」

どうやら水泳部員がセクシーなポーズでジノを誘惑する作戦のようだ。
デレッと頬を緩めるジノにルルーシュはフンッと鼻を鳴らすと

「痛ッ!先輩、痛いよ!」

ジノの頬をつまんだ。

「ジノの馬鹿。節操無し。変態。」
「酷い…今日の私の主はルルーシュ先輩なんだから。他の人に惑わされたりしないって!悪いな!レディ達。」
「あぁ〜ん。ジノ様〜。」

ジノは軽々女生徒達の壁を突破した。

「あっ!」

すれ違い様に誰かが声をあげた。
誰にも聞き取れないくらいの小さな声で。






「ちょっと待て〜い。俺達が相手だ!」

今度はさっきの甘い声と違って野太い声が響いた。

「ちッ。次から次へと…ジノこいつらは手強いぞ。」

ラグビー部員達が二人めがけてタックルを仕掛けてくる。

「おっと。ルルーシュ先輩?私も一応ラウンズですから。」

よっ。と掛け声でジノがジャンプした。
対象物が消え、次々と部員達がぶつかり合う。

「あれ?うわッ!」
「痛ッ!」
「おい!お前ら〜しゃんとしろッ!?」

重なり合う男達の上にキャプテンの声が響いた。

「ジノ…お前も体力馬鹿なのか。」
「嫌だな〜先輩。スザクと一緒にしないで下さいよ。」
「同じだ。まったく…。そこを左に曲がった所で下ろせ。」

「イエス、マイロード。」

ジノはルルーシュを抱いたまま走り続けた。