「ん…っ。」

ルルーシュは目を覚ました。

「ッ!!」

そして隣を見て驚いた。
心地よいと感じていた温もりは陽射しではなくジノの体温だったのだ。

ルルーシュがしていたようにジノもルルーシュに身体を預けていた。
二人は寄り添い温もりを分け合っていたのだ。

「………ッ。」

その事実にルルーシュは驚くのと同時に頬が熱くなるのを感じた。

…ッ恥ずかしい。
しかもジノが隣に来たのも気付かなかったとは…


でも…


ルルーシュは自分に掛けられている大きな制服を広げると二人の上に掛け直した。

「もう少しだけだからな…」

もう少しその温もりを感じていたくてルルーシュはジノの肩に頬を寄せ瞳をつむった。






「まったく…何で僕が。」

久しぶりに登校してきたと思ったらルルーシュはサボりで教室にはいなかった。
放課後、生徒会室に顔を覗かせると会長からルルーシュとジノの捜索を命じられたのだった。

「ルルーシュの事だから…屋上か図書室だろう。」

スザクは目星をつけて屋上への階段を上っていた。
扉を開けてスザクは驚きの余りに固まった。

「嘘…っ。」

あの警戒心の強いルルーシュがジノに肩を預けて眠っているではないか。
この数週間で二人の間に何があったか知らないが、驚くべき光景であった。

「ど、どうしよう。起こさなきゃ…でも…」

二人して気持ち良さそうに寝ているのを起こすのは忍びない。

スザクが二人の近くで右往左往していると

「ん…あぁ、スザク!」

目を覚ましたジノが控えめに声を掛けてきた。

「ごめん。起こした?」
「いや、大丈夫。探しに来たのか?」

ジノが隣で眠るルルーシュの顔にかかる前髪を優しく横へと流す。

「あ、あぁ…会長に頼まれてさ。」

まるで恋人を慈しむような仕種にスザクはジノから視線を外した。


どうして僕が…


スザクは胸の痛みを感じた気がしたが頭を振って思い違いだと言い聞かせる。

あらわになった形の良い額へジノは軽くキスをした。
それを感じたのか感じなかったのか分からないがルルーシュが身じろぎすると目を覚ました。

「ジノ?」

ルルーシュはまだぼやける視界と頭でジノの存在を認識する。

「よく寝れた?」

ジノが優しく頭を撫でるとルルーシュは気持ち良さそうに瞳を細めた。

「うん。」

こくりとルルーシュが頷く。


うッわ〜!!!


どうしよう。本気で可愛い。抱きしめたい!キスしたい!

ジノが抱きしめようとしたその瞬間。

「ゴホンッ。僕の事忘れてない?」

スザクがわざとらしく咳ばらいをして存在を主張する。
ちぇッとジノは小さく舌打ちをした。
ここまでくるとルルーシュの意識もはっきりと覚醒する。

「スザク。学校来てたのか?」
「お昼からね。でも、教室に行っても君はいないし。放課後、会長から捜索命令が出たんだ。」
「あぁ、すまない。どうやら眠り込でいたみたいだ。」

スザクは二人を見て

「そうみたいだね。」

と笑った。
ルルーシュはまだジノにくっついているのに気付き慌てて離れた。

「あれほど外で居眠りしちゃ駄目だって言ったのに。君は体力無いんだからまた風邪引いちゃうよ?」
「あぁ…すまない。暖かかったからついうたた寝してしまったようだ。」

悔しいがルルーシュには自分の体力や免疫に関して反論の余地は無かった。

「起こさなかった私も悪かったんだ。先輩ごめんな?」
「いや。ジノは悪くない。制服掛けてくれたんだろ?ありがとう。」

ルルーシュは立ち上がると制服をジノに返す。

「どういたしまして。ミレイが探してるって事はまた仕事させられんのか?」
「スザクの分が溜まっているからな…」

さっきの仕返しとばかりに大袈裟にため息をつきスザクに視線を向ける。

「う…ッ。僕だって忙しいんだからね!」

スザクは痛いとこを突かれたじろぐ。

「どうせ皇女殿下の我が儘で買い物だの何だの付き合わされてるだけだろ?」
「ちッ違うよ!そりゃたまにはあるけど…いや!本当にたまにだよ?僕は騎士なんだし、我が儘だなんて思ってないし…」

さらに図星を突かれ、スザクはどんどん小さくなっていった。
そんな姿を見てルルーシュとジノは顔を見合わせて吹き出した。

「ひ、ひどいや。二人して僕をからかって…」
「い〜や。スザクが悪いと思うぜ。」
「すまない。つい面白くて。さぁ、会長が待ってるみたいだし行くか。」

「せっかく学校に来たのに…」

ぶつぶつ呟くスザクを置いて二人は階段へと向かう。

「あッ!待ってよ!」

その後をスザクは追い掛けた。


自分のもやもやした気持ちを残したまま…






「おっそぉ〜い!もうあんた達何してたのよ?三人がいない間に次の企画決まっちゃったわよ。」

ミレイが書類をルルーシュ達の前でひらひら〜っと見せ付ける。

「会長…わざとですね?」
「あらッルルちゃん。何の事かしら。」
「俺がいたらこんな企画全力で阻止してましたよ。」
「どれどれ〜?どんな企画なんだぁ?」

ジノは初めてのイベントにウキウキしながらミレイから書類を取った。

「何なに…ん?『キューピッドの日』?何すんの?」
「えぇ〜発表しまぁす!題して『キューピッドの日☆』強制でカップルになっちゃおうって日ね。」
「「はぁ…」」

ルルーシュとスザクはミレイの相変わらずの突拍子もない発想にため息をついた。

「いいじゃん!それ!面白そうだし。」

一人ニコニコしてジノが賛成した。

「さっすが!ジノは分かってくれるのねッ。」
「いやぁ〜ミレイはすごいな。」
「うん、うん。もっと褒めて良し!じゃあ、先生に書類出してくるから待っててね♪」

ご機嫌で書類を丸めくるくると回しながらミレイは部屋を出て行った。

「ジノ…あんまり会長を乗せるのはよしてくれ。後々面倒なんだ。」
「そぉか?でもいい企画じゃん。」

ジノは男同士でも公認カップルになれんのか?と期待を抱いていた。

「でも…そ、そういうのはやっぱりお互いの気持ちが大事だと思うが…」

恋愛に関しては経験がほとんどないルルーシュらしい意見だった。

「そっか…」
「そうだよ!ジノみたいに手当たり次第じゃ駄目なんだよ。」
「スザク…ひどいなぁ。私はそんなつもりじゃないんだけど。」

自分からレディに手を出した事は無いし、レディに恥をかかせない為にもお付き合いしているだけだった。
確かに周りから見れば来る者は拒まず去る者は追わず。かもしれないが…。
最終的に貴族と庶民では釣り合いが取れず、自分から去っていくレディばかりだった。という話なのだ。

「そうなのか?」
「ル、ルルーシュ先輩まで…私ってそんなに軽く見えます?」
「あ!すまない。そんなつもりで言ったんじゃないんだ。忘れてくれ。」

ルルーシュは気まずそうに顔を反らすとリヴァル達の方へ行ってしまった。

「ジノ。君…まさかルルーシュに本気なの?」

その後ろ姿を寂し気に見つめるジノにスザクは声を掛けた。

「さぁ…スザクには内緒〜」

ジノはからかうように笑うとスザクの背中を思いきり叩いた。

「痛ッ!!何すんだよ!」
「変な事言うからだ。仕返し?だな。先輩〜」

ジノは背中を摩るスザクを残しルルーシュの元へと走って行く。

「うわッ!ジノ!離れろ。」

でっかい図体に抱き着かれルルーシュは悲鳴を上げていた。



「何なんだよ…」

スザクはそんな二人を振り返れずにいた。

ルルーシュは大切な親友で…それ以上でもそれ以下でも無い。


はずなのに…胸が痛いのは…


いや。きっと家族みたいに感じてたから…
自分が一番じゃないのが寂しくてジノに妬いてるのかも。

そうスザクは先程から感じていた胸の痛みに理由を付けてしまい込んだ。