「なぁ、スザク。ルルーシュって恋人とかいるのかな?」
「えッ?」
スザクはジノがルルーシュが男だとバレている事をまだ知らなかった。
ど、どうしよう…言った方がいいよね?
うわ〜懲らしめるとかルルーシュに無茶言っちゃったし…
そういえばジノがこんな事言うって事はまだ告白とかしてないって事だよね…
「実は…さ、ジノ。ルルーシュの事なんだけど…」
「あぁ。男ってやつ?心配しなくてもルルーシュに聞いたよ。」
「そ、そうなんだ…」
スザクは拍子抜けした。
「えッ!?それでも、気になってんの?」
が、すぐに驚いてジノの顔を見た。
「そうだけど?どうかした?」
「いや…ごめん。この展開は意外だった。」
「で?どうよ?」
「いないと思うよ。最近話してないから分かんないけど…」
ルルーシュは男に興味は無いと思うんだけど…
スザクはそんな事を思ったが自分が口を挟む事じゃないと胸に留めた。
「そっか。良かった。私は決めたよ。」
「何を?」
「学校だよ!私もスザクやルルーシュと同じ学校に入るから。」
ジノは瞳を輝かせて宣言する。
「いいけど、ちゃんと許可取ってからにしなよ。」
「分かってるって、先輩!」
「そういえばあの後どうしたの?」
スザクはルルーシュにもジノにもあの後の事は聞いていなかった。
「あの後は水族館に行って、ルルーシュと友達になったぜ。」
「そ、そうなんだ。何か意外に展開早いね。」
ルルーシュも周りを警戒していたあの頃とは違うと思いながらも、ジノをあっさり友達という位置に置いてしまった事をスザクは複雑な気持ちで聞いていた。
「スザク、もうあんな無茶苦茶な事をルルーシュに頼むなよ!変な虫が付いたら駄目だからな。」
ジノは十分に変な虫だ。と心の中で呟いて、スザクは頷いた。
「悪かったよ。でも、会いたいって頼んできたのはジノなんだからね。」
「女の子って嘘ついたのはスザクだからな。」
「うッ!」
「そうと決まれば入学手続きしなきゃな!私は許可を取りに行ってくるよ。」
ジノは嬉しそうに言うと部屋を出ていく。
「いってらっしゃい。」
その背中へスザクは小さく呟いた。
スザクは一人残された部屋でジノのおそらく初恋であろう想いを応援するべきか思い悩んでいた。
「ス〜ザ〜ク!どうだ?なかなか似合ってるだろ?」
ジノは自慢気にアッシュフォード学園の制服を着てスザクにお披露目していた。
「分かんないけど、いんじゃないかな?」
「何だよ、それ?褒めてんの?」
「似合ってる、似合ってる。今日から行くの?」
「許可が下りたからな。庶民の学校なんて初めてだからワクワクするな。」
いつも以上にジノは落ち着きがなかった。
「ミレイ会長には僕からも連絡してジノの事お願いしてあるから。」
「お!サンキュー。助かるぜ。じゃあ時間だから行ってくるわ。」
「僕は軍務で行けないから…会長達によろしく伝えておいてくれるかな?」
ジノは手を振りながら
「OK!じゃあな。」
と勢いよく出て行った。
「大丈夫かな?」
スザクは浮かれ調子のジノに不安を抱いた。
ジノは早い時間に着いてしまった。
「時間聞いとけば良かった…」
ぶらぶらと歩き回っていると見覚えのある人影を見掛け、走って向かった。
「ルルーシュ〜!」
名前を呼ばれ振り返った彼は驚いた顔をしていた。
「ジ、ジノ!?どうしたんだ?うちの制服なんか着て…」
「今日から入学したんだ。よろしく、先輩。」
にっこり微笑んで左手を差し出したジノにルルーシュは更に驚きを濃くした顔でジノを見つめた。
「ジノ…お前…年下だったのか!?」
「あれ?スザクから聞いてなかった?」
「あぁ…あいつは何も言ってなかったな。まったく大事な事を忘れるとはスザクも困った奴だ…」
予想外のジノの入学に年齢。ルルーシュは頭が痛くなるのを感じた。
「それよりもジノ。仕事の方は大丈夫なのか?仮にも帝国最強の騎士だろ?」
「仮にもって酷いや。大丈夫!許可は取ってあるし。」
「そうか。ならいいが。スザクはどうした?」
ジノの初日の登校だというのにスザクの姿は見当たらなかった。
「スザクは、軍務が入ってるって。皆によろしく伝えてくれってさ。」
「相変わらず忙しいみたいだな。」
ルルーシュは嫌みを込めて呟いた。
「ユーフェミア総督の騎士になってからずっと忙しいみたいだぜ。」
「まぁ、今が一番大変な時だからな。」
コーネリア前総督がエリア18の征圧に向かう事となり、エリア11はユーフェミアが総督となり統治されていた。
行政特区日本が成功したおかげでエリア11は落ち着きを見せており治安も安定していた。
一時は皇位継承権を返上したユーフェミアだったが、特区日本の成功もありコーネリアとシュナイゼルの口添えで復権したのだった。
「それより、ルルーシュ先輩!学園を案内してよ。」
「そうだな。時間もあるし案内してやる。まずは職員室に挨拶に行かなくてはな。」
「はぁい。」
ジノはルルーシュの後を嬉しそうについて行った。
ジノが犬ならばぱたぱたと尻尾を振っている事だろう。
ルルーシュのみならず、通りすがりの生徒達も同じ事を思っていたに違いない。
職員室で一通りの挨拶を済ませると生徒会室へと向かった。
「この学園は全寮制なんだが、訳あって俺と妹のナナリーはこのクラブハウスで暮らしている。用があれば遊びに来るといい。」
「遊びに行っていいのか?」
嬉しそうに尻尾を振りちぎるジノにルルーシュは念を押す。
「用があればな。」
「もちろん。でも、私も寮に入んのか?」
「いや、確か…スザクもなんだが、ジノも軍務が優先だから特別に通学が許可されているはずだ。」
クラブハウスの前で話していると車椅子の女の子が出て来た。
「ナナリー。もう調子はいいのか?」
ルルーシュが心配そうに顔を覗き込む。
「はい。お兄様。熱も下がったので咲世子さんが行ってもいいって言って下さいました。」
「そうか。でも、無理しないで体調が悪くなったらすぐに言うんだよ。」
ジノが今まで見たルルーシュのどの表情よりも慈愛に満ちた優しい笑顔だった。
私にもいつかそんな笑顔を向けてくれるだろうか。
「ナナリー、彼は今日からアッシュフォード学園の生徒になったんだ。スザクと同じ軍人なんだ。」
「やぁ。はじめまして。私はジノ・ヴァインベルグ、よろしく。」
「ナナリー・ランペルージです。ジノさん、よろしくお願いします。」
ナナリーが両手を差し出した。
ジノがどうするか悩んでいると、
「ナナリーは目が見えない分、手でだいたいの人柄が分かるんだ。」
「そうか。じゃあ。」
ジノはナナリーに手を差し出した。
「ジノさんは真っすぐで温かい方なんですね。お兄様をよろしくお願いしますね。」
「任せて!ナナリー。」
「ジノ!ナナリーも変な事言わなくていいから。咲世子さんナナリーをお願いします。」
後ろに控えていた咲世子がナナリーの車椅子を押して中等部の校舎へと向かって行った。
「ナナリーは足も悪いのか?」
「あぁ。足も動かない。でも、あの子は誰よりも強くて優しいんだ。」
ルルーシュはこうやっていつも惜しみない愛情をナナリーへ注いできたのだろうか。
水族館が初めてだったのもきっと目が見えないナナリーの事を思ってなんだな。
ルルーシュの事を知りたいと思う。少し知ればもっと知りたいと思う。
初めての感情にジノはルルーシュもそうであってくれたらいいのに。と願った。
〜〜♪〜〜♪
チャイムが鳴り始業時間5分前を知らせた。
「ジノ、そろそろ授業が始まる。教室は分かるだろ?困った事があれば連絡してこい。」
ルルーシュは小さな紙をジノに渡した。
そこにはルルーシュの携帯番号とアドレスが書かれてあった。
「ルルーシュ〜」
「こら。先輩だ。いや…身分的には間違いではない…か?」
ルルーシュがぶつぶつと考え始める。
「いーや!ここでは私の階級など関係無し。だから友達としてよろしく、先輩。」
「そうだな。改めてよろしく。ほら初日から遅れるつもりか?」
「本当だ!ルルーシュ先輩も早〜く!」
「はいはい。」
二人はそれぞれの教室へ向かった。