「ルルーシュ、どっか行きたい所ある?」
ルルーシュは内心人混みは避けたいと思っていたが、どこにいてもジノは目立つだろうと諦めていた。
こうなれば最大限に今の格好を活かし、普段行けない所に行ってやろうじゃないか。
「水族館。イルカが見たい。」
本当は昔から行ってみたかったのだが、ナナリーの事もありルルーシュは一度も足を運んだ事がなかったのだ。
何しろ男二人で行くにはさすがに厳しいのでスザクやリヴァルには言った事は無いし、会長やシャーリーに言ってしまえばからかわれるのが目に見えていた。
「分かった。じゃあ水族館へ行こう。」
ルルーシュは少しだけ今の格好に感謝した。
「まだ少し寒いから車で移動しようぜ。」
ジノはルルーシュの冷えた手を優しく取るとリムジンに乗り込んだ。
「私は水族館は初めてだ。ルルーシュと行けて嬉しいよ。」
「そうか。わ、私も初めてだから…楽しみだよ。」
これじゃまるで初々しい付き合いたてのカップルみたいじゃないか!とルルーシュは赤面する。
ジノの素直さにルルーシュは調子を狂わされていた。
しばらくして車が停まる。
「着いたぜ。ルルーシュ。早く行こう。」
「あ、あぁ。」
何だか自分よりもジノの方がはしゃいでるのが可笑しくてジノに内緒で笑った。
「ほ〜ら。」
「分かった、分かった。」
自然に笑顔になる。
「微笑ってる方がルルーシュには似合ってる。寒いから手、出して。」
「えッ?」
ジノはルルーシュの手を握ると歩き出した。
ルルーシュはジノの手の温もりが暖かくて振り払う事が出来なかった。
「ちょっと待ってて。」
ジノは受付でチケットを購入し、パンフレットを貰った。
「あっ…」
そこには今日のスケジュールが書かれていたがイルカのショーは終了していた。
「ごめん。お姉さん、お願いがあるんだけど…」
「遅かったな。混んでたのか?」
「ごめん。ちょっと勝手がわかんなくて教えてもらってたんだ。」
ジノはチケットをルルーシュへ渡し、再び手を握る。
「もうこんなに冷たくなってる。待たせてごめんな。」
「元から冷え症なだけだから…ジノのせいじゃない。」
女の子扱いをされて嬉しい訳じゃないけど、優しくされるのはくすぐったかった。
二人で水族館の中を歩いて回る。
ペンギンに北極グマ、でっかいサメや小さな魚達。
ルルーシュにもジノにも目に映る全てが新鮮だった。
「こうやって海の中で生活してるんだな。面白いな、ジノ。」
「本当だな。」
ルルーシュに微笑まれジノは硬直した。
今まで出会ったどの女性よりも純粋で優しい心の持ち主だった。
ジノは自分がルルーシュに惹かれていくのを感じた。
〜♪〜〜♪〜♪
館内放送で音楽が流れた。
ジノはその音楽を合図にイルカの広場へとルルーシュをエスコートする。
そこでは5頭のイルカがプールの中を泳いでいた。
『イルカのショーへようこそ!』
司会役の女性がマイクを持ち二人へ挨拶をする。
「せっかくだから真正面に座ろう。」
真ん中の水のかからない席へ二人は座った。
周りには誰もいなかった。
「ジノ?」
ルルーシュは不思議そうにジノの名前を呼ぶ。
「ラッキー。今日は人が少ないからしっかり見れるな。」
「あ、あぁ…」
ルルーシュは腑に落ちなかったが、目の前でショーが始まったのでそちらに意識が集中して周りの事など忘れてたしまった。
『まず”アポロ”と”ルナ”が輪を飛んでくぐりま〜す。』
名前を呼ばれた2頭のイルカは勢いよくプールの中へ潜ると上からぶら下げられた輪をくぐる。
「わぁ…すごいな…」
「おぉ!すっげぇ〜」
『次は”マーズ”と”ヴィーナス”です!』
今度は2頭のイルカが人を背に乗せてプールの中を泳ぐ。
「私も乗りたいなぁ。」
「ジノじゃ重いからイルカが可哀相だ。」
「ルルーシュ〜ひどい。」
アハハと顔を見合わせて笑う。
その後もイルカが曲に合わせてジャンプしたり、ボールを使ってバスケしたり二人はショーを楽しんだ。
『さぁ〜皆さんお待ちかねの白イルカの”プルート”の登場です。』
プルートと呼ばれた他の4頭と違う白イルカ。
『正面のガラス前に来て下さ〜い!』
「ほら行こッ。」
うん。と頷いてルルーシュはジノに手を引かれ前へと行く。
すると、白イルカと飼育員がガラス越しにいた。
『これを見ると幸せになると言われているバブルリングです。』
「え?」
ルルーシュは不思議そうな顔でジノを見上げる。
「ちゃんと見ててあげて。」
『3・2・1〜♪』
「うわぁ〜」
「おぉ!すげぇ〜」
白イルカの口から泡の輪が吐き出された。
輪の形がハートになっていた。
『今日の”プルート”は絶好調です!ハートの形は滅多に出ないのでしっかり目に焼き付けて帰って下さいね!』
本当に珍しいのだろう。司会役の女性が興奮していた。
『もう1回”プルート”いけるかな?』
うんうん。とイルカが頷く。
「可愛い…」
「本当だな。可愛い。」
私には白イルカに瞳を輝かせているルルーシュの方が何倍も可愛いんだけどな〜。
『じゃあ、3・2・1〜♪』
今度は白イルカの口から泡の輪が2つ3つと続けて吐き出された。
「凄い!凄いな。」
「あぁ。凄い!」
白イルカがガラスまで近付いてガラスにチュッとキスをして胸びれを振る。
『最後は皆で挨拶で〜す。ありがとうございました〜♪』
ステージの前で5頭のイルカが並び、胸びれを振り二人へ挨拶をする。
『写真撮影も出来ますがされますか?』
「あぁ、頼むよ。」
ジノは司会の女性へ返事をすると、飼育員が白イルカを誘導する。
「じゃあポーズとって下さいね。」
ジノに肩を寄せられルルーシュは焦ってジノを見上げる。
「記念…だから微笑って?」
「あ、あぁ…」
楽しかったし、まぁこれくらいいっか。
ルルーシュもジノも笑顔をカメラに向けた。
「いきますよ。笑って〜3、2、1。もう1枚いきますね。3、2、1。」
「ありがとう。」
「いいえ。出口で写真準備しておきますので。」
「あぁ。助かるよ。さっきの白イルカのハートのバブルリングの写真もある?」
「ございますよ。ではお二人分ご用意しておきますね。」
司会の女性は頭を下げるとその場を後にした。
「良かったな。ルルーシュ。」
ジノは満面の笑みをルルーシュへ向ける。
楽しかった分、ジノに嘘をついているのがルルーシュは心苦しくなっていた。
「ルルーシュ?泣いてるの?」
「えッ…?おかしいな…」
ルルーシュは無意識のうちに涙を溢れさせていた。
「ひょっとして無理させちまったか?」
優しくジノがルルーシュの涙を拭う。
「そんな事ない。楽しかった。感動…したのかな?」
「ごめん。」
ジノはルルーシュを抱きしめた。
「私は…ルルーシュがその…男だって途中で思ったんだけど…気付かないふりをしてた。それが辛かったんだろ?ごめんな。」
ルルーシュは驚きを隠せなかった。
ジノは途中から気付いていたのに自分に騙されていてくれたのか…
いや、スザクの嘘に付き合ってくれてたのか。
「ジノ、お前は悪くないだろ?悪いのは俺とスザクだ。すまない。」
「ルルーシュは優しいからスザクに何か言われたんだろ?それに…」
少し言いづらそうに言葉を濁す。
「私は…ルルーシュと仲良くなりたい。女とか男とか関係なく。友達に…なってくんない?」
ジノは不安そうな表情でルルーシュの顔を覗き込む。
「俺は貴族は嫌いだ…」
ルルーシュはジノの顔を見上げる。
「でも…ジノは嫌いじゃない。」
照れ隠しにぶっきらぼうに告げる。
「ルルーシュ!ありがと。私は好きだよ。」
ぎゅうっとジノはルルーシュを抱きしめた。
「ジノ!苦しいって!」
文句を言いながらもルルーシュは笑って受け入れていた。
ルルーシュは暫く無人のイルカの広場で抱きしめられていた。
「じゃあこれ。写真出来てたから。」
「あ、ありがとう。お金…」
ルルーシュをジノは制止した。
「今日は無理させたからお詫びだよ。受け取って。」
「何から何まですまない。今日はありがとう。デザートもショーもジノが無理言ってくれたんだろ?」
「何の事かな?」
ジノはウィンクをしてごまかした。
「ありがとう。」
チュッと背伸びをしてルルーシュはジノの頬にキスをした。
「一目惚れした女からの最後のプレゼントだ。これが最初で最後。次に会う時は友達…だからな。」
ジノはまたぎゅうっと顔を真っ赤にさせているルルーシュの細い身体を抱きしめた。
「ありがとう。ルルーシュ。」
男を好きになった事など今までに一度もない。
もちろんこれからも無いだろう。
でも、私はルルーシュを好きになっていた。
遅れてやってきた初恋は思いがけない出会いから始まった。