スザク…


お前が夜空を見上げているのはルルーシュが星になったから?

仮面の下に全てを隠して…

一人ルルーシュを想って泣いているのか?




ナナリーの警護の為にスザクはゼロとして私達と屋敷で生活を共にしている。
屋敷内を見回りしていたある日。
窓の外に夜空を見上げるスザクを見つけた。
あの日から度々一人夜空を見上げるスザクの姿を見かけるようになった。

今日は何故か無性に放っておけなくなってスザクの元へ駆け寄った。

「スザ…ッ。いや…ゼロ。」

スザクと呼びかけて小さく否定をする。
今のスザクはスザクを捨てゼロに全てを捧げていた。

「何か異常かい?」
「あ…ッ、いや…」

冷静なスザクの対応にこっちが吃る。

「何してんのかな?って…」
「あぁ…これからの事とか考え込んでしまってたみたいだ。」

痛々しいスザクの姿に胸を締め付けられる。

「……ッ!ジノ?」

突然ジノに抱きしめられスザクは驚いた。

「辛いなら…泣いていいんだぜ?苦しいなら…喚けばいい。私が受け止めるから。」

出来る事ならスザクの苦しみを減らしてやりたい。
私達は”今”を生きているのだから。

「ジノ、君は…」

思いがけないジノの言葉にスザクは驚いた。
スザクは抱きしめるジノの腕を優しくほどいた。

「変わらないな。ありがとう。」

仮面の下のスザクは笑っているのだろうか?

「スザク…」
「もう枢木スザクは死んだ。ジノ…僕はゼロだ。」

スザクはゼロとなり一体どれ程の重荷を背負っているのだろう…

「でも、今だけは…君の友としていさせてくれ。」
「あぁ。私は大歓迎だ。」

きっと今のスザクは笑っているだろう。
雰囲気が柔らかくなったのを感じる。

「今の僕は一人じゃないんだ。だから、ジノ達が心配してるような辛さや苦しみは無いんだ。」
「そんなはず…」

周りの誰が見てもスザクが苦しんでいるのが分かる。

「ルルーシュがね…僕にたくさんのモノを残してくれたから。」
「………?」

スザクはまた星空を見上げた。

「僕を見守っててくれてるから…もちろん、ナナリーやジノ…君達の事もだけどね。」

C.C.の話ではルルーシュは皆とは違う末路を辿っていると聞いた。
人の理を外れたルルーシュには死後の世界も違うと…

「だから僕もルルーシュの幸せを祈ってるんだ。」
「スザク…」
「でも、こんな僕を見たらルルーシュは『バカ』って言うんだろうな。」

二人の頭の中に顔を赤く染めながら照れ隠しで素っ気ない態度のルルーシュが容易に想像出来た。
二人して顔を見合わせ笑う。

「それがルルーシュだな。」
「あぁ…」

二人して星空を見上げた。

「それにあの時…ルルーシュが僕に言ってくれたんだ。」
「何を?」

ジノは視線をスザクに向ける。
スザクは相変わらず星空を見上げたままだった。






ルルーシュからゼロレクイエムの計画を聞かされたあの日。

「ルルーシュ…また僕たち会えるよね?」

スザクはゼロの仮面を受け取り、ルルーシュの冷たい手を握り締めた。

「スザク…俺はこの世を去るんだぞ?」
「分かってる、分かってるけど…」
スザクは耐え切れなくなりルルーシュから視線を外した。

「そうだな。スザクが俺に会いたいと強く願い続けていてくれれば…」

ルルーシュはスザクの手を握り返した。

「俺にその願いが伝われば…その時は会いに来てやってもいい。」
「ルルーシュ!!」

スザクは勢いよくルルーシュを抱きしめた。

「スザク…お前には俺に縛られて欲しくは無いんだ。」
「ルルーシュ?」
「ただ…」

スザクはルルーシュの顔を覗き込んだ。

「俺がスザクを愛していたという事だけは忘れないでいて欲しい。この先俺の辿る道は容易では無いだろう。でも…」

ルルーシュはスザクの首に腕を回した。

「いつもスザクの幸せを祈っているから。」

どちらからともなく口づけを交わした。
別れを惜しむように何度も何度も…






「ここから先はジノには教えれないんだけどさ。」
「ようするに惚気じゃねーか。」

ジノはスザクの仮面をこつんと叩く。

「でも、あんま我慢してないで何かあったら私に相談しろよ。」
「ありがとう、ジノ。君と話せて良かった。」
「あぁ。じゃあ私は見回りが残ってるから。」

ジノはまたなと手を振り立ち去った。

「また…か。」

スザクはジノの背中を見送った。

「ルルーシュ…君はいつ会いに来てくれるの?」

星空を見上げにそっと呟いた。









「ゼロも一緒にしませんか?」

ナナリーがスザクの元を訪れた。

「何をですか?」
「一緒に来れば分かります。さぁ、ついて来て下さい。」

スザクは言われるままナナリーについて行った。
着いた先は庭だった。

「あ…」
「よッ。懐かしいでしょ?」

そこには笹の木に飾り付けをしているカレンの姿があった。

「小さい頃はよくしてたんだけどさ。あんたもでしょ?」
「あぁ…懐かしいな。よく見つけたね。」

スザクは笹の木を見上げた。

「最近じゃなかなか生えてなくてさ。ナナリーに話したら七夕やりたいって言うし。探してもらったんだ。」
「昔、咲世子さんから聞いた事があって…私もやってみたかったんです。」
「じゃあ短冊にお願い事書かなきゃ。」

カレンとナナリーは笹の葉の飾り付けや短冊へ書く願い事の話で盛り上がっていた。


七夕か…


すっかりそんなイベントがあった事なんか忘れていたな。
それだけ日本も平和を取り戻したって事か…

「カレン。七夕って彦星が織姫に会いに来る話だったよね?」
「そうよ。天の川を渡って会いに来るの。だから、天気の悪い日は会えないんだって聞かされたわ。」
「ゼロも短冊に願い事書いて下さいね。」

スザクはナナリーに渡された短冊を手に取った。

願い事なんて…一つしか無い。

スザクはこっそり願い事を書くとジャンプして見えにくい高い場所に短冊を吊した。

「皆さんの願い事が叶うといいですね。」
「大丈夫。願い続けてればきっと叶うから。」
「はい、ゼロ。」

ナナリーはスザクを見上げ微笑んだ。






その日の夜はジノがジャパニーズフェスティバルとか騒ぎ出して皆で笹を囲んでパーティーになった。
もちろんスザクは参加せずにナナリーをジノ達に任せると屋上へと上がった。
入口に鍵を掛け仮面を外し空を見上げた。

「今日はいい天気だ。織姫と彦星は会えているだろな。」

空には天の川が綺麗に瞬いている。


”ルルーシュに会えますように”


願いは一つだけ。
会いに来てくれるのを待ってるだけなんてまるで織姫の気分だな。

「何を感傷に浸ってるんだ。」
「ッ!?」

聞き違えるはずの無い声。

スザクは周りを見渡す。

「ッ!!!」

その姿を見つけ一直線に走り出した。

「ルルーシュ!」

伸ばした腕がルルーシュの体を抱きしめた。

「ルルーシュ〜」

ルルーシュの胸に顔を埋めスザクは泣いた。

ルルーシュが亡くなってからスザクは初めて涙を溢れさせた。

「バカ…泣くな。スザク。」

ルルーシュは優しくスザクの頭を撫でる。

「だって…」
「せっかく会えたんだから笑顔で迎えてくれよ。」

ルルーシュの声にスザクは顔を上げた。
涙で濡れた瞳のまま精一杯の笑顔で微笑う。

「お帰り。ルルーシュ。」

ルルーシュはただいまという台詞を飲み込んだ。
決してCの世界から戻ってきたわけではない。

「スザク、会いたかったよ。」
「ルルーシュ、僕も会いたかった。」



それは七夕の夜に起きた奇跡。