「ジノ…どういう事だ?説明してくれ。」

ルルーシュは瞳に困惑した色を浮かべジノを見つめた。
ジノは困った時の癖で頭をかくと真剣な表情でルルーシュと向き合った。

「怒らないで聞いて欲しいんだけど…」
「怒らないという保証は出来ないが話は聞かせてもらおう。」

ジノは気持ちを落ち着かせるために深呼吸をした。

人に想いを伝えるのってこんなにも緊張するんだな…
今まで私に想いを告げたレディ達もそうだったのだろうか?
否、違う。
本気で私を想ってくれた人など皆無に等しいのだから。

「先輩と私の帽子を交換させてもらったんだ。」
「何!?」

ルルーシュは頭に乗っているハート型の帽子を取った。

「いつの間に…」

それには確かに朝被った時には無かった物が付いていた。

「ロッカーに隠れた時に交換したんだ。」
「こんな大事な物をこんな事に使うな。」

ルルーシュが帽子に付いた騎士の紋章を取ろうと伸ばした手をジノに掴まれた。

「私の気持ちだからッ!」
「えっ?」
「初めてルルーシュを見たあの時から私の心はルルーシュでいっぱいなんだ。」

そう。男と分かってもこの気持ちは変わらなかった。
それどころかルルーシュへの想いは募る一方だった。

「ジノ…」
「ルルーシュが好きだ。もちろん恋愛感情込みでだけど。」

ルルーシュはジノから瞳を反らすと俯いてしまった。

「ルルーシュ…」

やっぱり男から好きだの言われても気持ち悪いだけだよな…

「俺は…」
「ん?」

聞き取れない位の小さな声でルルーシュが話し出す。

「その…お前に…好かれていないと思ってて…」
「何で?どうして?」

ジノは思い当たる節が見当たらず焦ってルルーシュの顔を覗き込む。

「だって…俺だけ先輩って。スザクや会長にはそんな事ないのに…」
「ルルーシュ…」
「うわッ!」

ジノはぎゅっと愛情を篭めてルルーシュを抱きしめた。

「自惚れだったらごめん。でもそれって妬きもち?」
「なッ!俺はそんなつもりじゃ…」

真っ赤な顔をしたルルーシュの否定する声が小さくなっていく。

「だってルルーシュが学園に来た時にけじめはつけろって言っただろ?だから逆にルルーシュだけ特別だったんだ。」
「そんな所だけ律義にする…な…」

語尾はジノの胸にルルーシュが顔を埋めたせいで消えていった。

「ルルーシュ…」

ジノが顔を埋めるルルーシュの頭を撫でるとルルーシュが顔を上げた。

「好きだ。」

キスをしようと顔を近づけるジノをルルーシュは止めなかった。
何をされるか分からなかった訳では無い。
それでも止めなかった。

ちゅ。

軽く触れ合った口唇。

「嫌じゃないの?」

心配そうに見つめるジノ。

「俺は…」

ルルーシュはそっとジノが触れた口唇に指で触れた。

この温もりを知っていた。
先日、陽だまり中で感じた温かさだった。

心が包まれるような温かさ。

咄嗟にルルーシュは顔を背けた。

「ルルーシュ…」

さっきから名前を呼んでばかりだ。
ルルーシュはやっぱり私を受け入れられないのだろうか…

顔を背けてしまったルルーシュにジノは傷ついた声を出した。

「俺は男だぞ?」
「うん。知ってる。それでも…そんな事関係無いくらい好きなんだ。」

自分の気持ちを自覚した途端に恥ずかしくてジノの顔が見れなかった。
しかし真剣に向き合ってくれるジノにルルーシュは耳まで赤く染めた顔を向けた。

「俺は…その…嫌いじゃない。」
「えッ!?」

ジノは思いがけない言葉に驚いた。

「だから…その…」
「嬉しいよ。ルルーシュ。」

もう一度ジノは優しく慈しむようにルルーシュを抱きしめた。
今度はそっとルルーシュの腕がジノの背中に回された。






『え〜終了までまだ時間があるんだけど、ルルーシュ・ランペルージ君の帽子が奪われちゃったのよね〜。
って事で皆、後は自由に愛を求めちゃってちょうだい♪』

「「「えぇ〜〜!!」」」

学園に響いた悲鳴の5割は部費に関係なくルルーシュとジノの帽子を狙っていた男女だったとか。

その後は自由に帽子を交換して恋人達が誕生していった。

「誰か私の帽子を奪いに来る男子はいないのかしらね♪」
「会長は無茶ばっかり言ってるからですよ〜」

シャーリーは見るからに落ち込み、ミレイも心の中でルルーシュへの想いを断ち切った。

「シャーリー?男はルルーシュだけじゃないんだから。」
「分かってます〜。でも、本当に好きなんです。どうやったら諦められますか?」

シャーリーの純粋な気持ちがミレイには眩しかった。

羨ましいわね。
私は素直になれなかったけど…

「無理に諦めなくていんじゃない?自分の気持ちに整理がつくまで想い続けてもいいと思うわ。」
「会長〜」
「あぁ…泣かないの。よしよし。」

ミレイはシャーリーにアッシュフォード家の為に政略結婚しか道が無い自分を重ねながら慰めた。






「話は終わったかな?」

スザクは会長の放送を聞いてから二人の元へと戻って来た。

「あぁ、スザク。終わったぜ。」

幸せオーラ全開のジノにスザクは迎えられた。

「ルルーシュ…本気かい?ジノは男なんだよ?」
「スザク…俺もまだはっきりその好き…とは言えないんだ。でも…ジノと居ると心が温かいんだ。」

ルルーシュは決して気を許した身内にしか見せない慈愛に満ちた表情でジノを見つめた。

「ルルーシュ、君…」

スザクは紡ぎかけた言葉を飲み込んだ。
本人には自覚が無いのかもしれないがどう見てもジノに心奪われているとしか思えなかった。
それをわざわざジノに教えるのも悔しいのでスザクは気付かないふりをした。

「ナナリーは君を心配してる。僕は君の帽子を持って行くと約束したんだ。だから、二人共一緒に来て欲しい。」
「あぁ。もちろんだ。ナナリーに帽子を渡さなくては…」
「えッ!じゃあルルーシュと私のカップルは成立しないのか?」

ジノはどんどん進む話に焦って口を挟む。

「だって男同士だし…無理なんじゃない?」
「スザク〜。そんなぁ〜でも兄妹ではもっと無理だろ!?」
「何を言っている?俺とナナリーはいつも一緒だぞ?」

不思議そうにルルーシュがジノに言う。

「ルルーシュ〜」



ジノは瞳に涙を浮かべて叫んだ。

ナナリーに帽子を届けたスザクはご褒美にナナリーからほっぺにキスをもらった。

「スザクさん、ありがとうございます。」
「ナナリー、大丈夫だっかい?変な奴に襲われたりしなかったか?」
「はい、お兄様。咲世子さんが守って下さいましたから。」

ジノさんごめんなさい。
でも…お兄様はまだジノさんには渡せません。

ナナリーは心の中でジノに詫びた。



「ルル〜シュ〜」

ジノは一人泣いていた。

ジノがルルーシュの恋人に昇格する日も近い(?)はず…。