私ははっきり言って一目惚れなど信じない。
いや…信じてなどいなかった。


今日までは…






「よ、スザク。何やってんだ?」
「あぁ、ジノ。今、生徒会の友達が送ってくれたアルバム見てるんだ。」

アルバムのページをめくりながらスザクは嬉しそうに瞳を細めた。

「何だ。スザク〜そんな顔も出来んじゃん。」

スザクの頭をくしゃくしゃと撫でる。

「ちょっと!止めろって。」
「まぁ照れるなって。生徒会って学校のか?」
「あぁ。僕も生徒会の一員なんだ。今じゃ幽霊部員だけど…」

こんなに嬉しそうに自分を話すスザクをジノは初めて見た。

「そっか。ちゃんと行けよ。私にも見せてくれよ。」

そう言ってジノはスザクの手にあったアルバムを取り上げる。

「あッ!僕もまだ途中なんだけど!」
「いいじゃん。どれどれ…」

アルバムをめくっていくと一人のドレスを着た女性が恥ずかしげに映っていた。
黒の長い髪に、紫水晶の瞳。

「スザク…彼女に会いたい!会わせてくれ!」

思わずそうジノは口にしていた。

「んんぅ…いいけど…」

歯切れの悪いスザクにジノは訝しげな瞳を向ける。

「まさか!スザクの恋人とか?」
「いや…大切な親友だけど…」
「そっか。ならいいんだ。約束だからな。」

瞳を輝かせ、スザクの手を握り強引に約束させるとジノは意気揚々と部屋へ戻って行った。

「え!?ジノ…」

浮かれ調子のジノに呆れた溜め息をつく。

「どうしよ…」

彼女は男だというのに…
ちゃんと言って説明しなきゃ…

「でも…」

ジノのあんなにはしゃぐ姿は恋愛事では珍しい。
1年くらいで分かった事…ジノはモテる。
貴族な上にラウンズなんだから女性が放っておくはずがない。

来るものは拒まず、去るものは追わず。

恋愛をしている感じでは無かった。
一時の暇つぶし。相手が本気なだけ質が悪い。

「ちょっとは女の子気持ちを知った方がいいよね。」

うんうんと頷くとスザクは携帯の短縮ボタンを押した。



「ルルーシュ?今、大丈夫?」
『ちょ、ちょっと待ってくれないか。………。』

ルルーシュの小さい声が電話の向こうから聞こえる。

『すまない。で、どうした?スザクから電話なんて珍しいじゃないか。』
「最近学校行けてないからね。皆は元気にしてる?」
『あぁ。相変わらず会長に振り回されてるさ。』

ルルーシュの溜め息が聞こえる。
生徒会室の情景が頭に浮かぶようでついスザクは笑った。

『まったく。お前がいないせいで俺の仕事が増えるんだから、たまには来いよ。』
「うん。近いうちに行けそうだから。ちゃんと仕事するね。」

ルルーシュが気遣ってくれているのが分かってスザクは気分が上がるのが分かる。

『そうしてくれると助かる。で、用件があったんじゃないのか?』
「あ!そうだった。ルルーシュ…君にお願いがあるんだ。」
『何だ?畏まって。内容によるが…』
「実は…もう一回ルル子になって欲しいんだ。」
『断る!!』

早ッ。もう少し考えてくれたっていいのに…
確かに男女逆転祭でも嫌々やってただけだし無理かもしれないな…

「僕の友達が君を見て一目惚れしちゃったみたいで。で、普段女の子泣かせてばっかだから懲らしめる為にも君に酷く振ってもらいたいんだ。」
『何で俺が見ず知らずの奴の為に…』
「違うよ。ルルーシュ。僕の為にもお願いしたいんだ。」
『は?』
「僕ももう一度ルル子に会いたいんだ。」

『……………。』

長い沈黙が二人の間に流れる。

ルルーシュはイレギュラーに頭を悩ませていた。
何故こんな事ばかりになるんだ…

『…一度見れば本当にお前もそいつも満足するんだな?金輪際俺は女装などしない。いいな。』

念を押すルルーシュ。

「うわぁ〜ありがとう。じゃあ日曜でいいかな?その方が会長にバレなくていいよね?」
『仕方がない。が、俺は服など持っていないからお前が何とかしろよ。』
「もちろん。ありがとう。じゃあ日曜の朝に迎えに行くから。」

ルンルン気分でスザクは電話を切った。
実のスザクもルルーシュの女装姿を気に入っていた。

さぁどんな服を買いに行こうかな♪

当初の目的を忘れスザクはルルーシュに着せる服を考え出した。






写真を見ただけで、こんなにも胸がドキドキするなんて思いもしなかった。
彼女の姿が頭に焼き付いて離れない。

「参ったな…」

ジノは一人呟く。

一目惚れってこの事を言うんだな。
まさか自分が…

〜〜〜♪〜〜♪

ジノの携帯がメールの着信を告げる。

”to:ジノ

彼女と連絡が取れたから。
日曜の昼過ぎ。アッシュフォード学園の前で。
彼女に失礼がないように!

from:スザク”

スザクからだった。
ジノは嬉しさに胸がいっぱいになるのを感じた。

女性関係に困った事なんて無かったけど、自分から好きだとか会いたいだとか関心を持った事など今まで無かった。

「マジでこんなの初めて…ヤバいかも…」

ジノはまるで初恋のように胸が高鳴るのを感じていた。