歓迎会の翌日にジノとアーニャはスザクに宣言した。
「スザク。私はあそこが気に入った。私も学校生活とやらを送るぞ。」
「私も。」
「えッ?二人とも?」
スザクは驚いて二人を交互に見る。
「「よろしく、先輩。」」
「はぁ…」
スザクは少し気が重たくなった。
ルルーシュがゼロかもしれないこの時期に厄介事が増えるのだ。
復学もその真実を確かめる為でしかないのだ。
「僕はナナリー総督の補佐としてこのエリア11日本へ滞在するようになるから忙しくて君たちと一緒には学園に通えなくなるんだけど…」
「構わないぜ。な、アーニャ?」
「うん。スザクいなくて大丈夫。」
はぁ…とスザクはため息をついた。
「ちゃんと許可をもらってから通ってよね。」
「は〜い。分かってるって。な、アーニャ?」
「許可、取る。」
数日後、二人はアッシュフォード学園の制服を身にまといスザクの前に立っていた。
「スザク〜、遅れるぜ?」
「あぁ…僕は、今日行けそうにないだ。悪いけど、ミレイ会長にお願いしてあるから学園に着いたら生徒会室へ行ってくれるかい?」
「何だ〜スザク来ないのかよ〜」
スザクはラウンズの制服を身にまとっていた。
はじめから二人にはスザクが学校に行く気がないのだと分かっていた。
「じゃあ、いってきま〜す。」
「いってくる。」
「あぁ、楽しんで来てよ。」
僕の分まで…
最近のスザクはルルーシュ達と居ても心が休まらなかった。
どう見てもルルーシュは出会った頃のルルーシュとしか思えなかった。
ナナリーがいない事にも違和感さえ抱かずに、ロロに笑顔を向けている。
自分がそう仕向けたといえ、なんだか無性に腹が立つ。
大切だった人も、奪った人の命の灯さえ忘れて…
「ここが生徒会室かぁ〜。」
クラブハウスの前にジノとアーニャが立っていた。
「あれ?君たち何々?転校生?」
青色の髪をした男子生徒が声を掛けてきた。
「スザクから会長を訪ねるように言われて来たんだけど。いるかな?」
「おぉ〜何だ、スザクの友達かぁ。はじめまして、俺リヴァル・カルデモント。よろしくな。」
「私は、ジノ・ヴァインベルグ。よろしく。」
「アーニャ。」
リヴァルと名乗った男子生徒は驚いたように二人を見た。
「まさか!?お前らってあのナイトオブラウンズ?」
「6と3。」
「さすがリヴァル。よく分かったな。」
「いや〜まさか、こんなとこで出会うとは思わなかったぜ。じゃないや…思いませんでした。」
リヴァルがいつもの調子で話しだして急に慌てて畏まる。
「あぁ…構わないから。ここでは階級とか関係なしでお願いしたいんだ。」
「そ、そうか。じゃあ、改めてよろしくな。」
生徒会室の扉を開けると中に生徒がいた。
「あら。もういらっしゃったみたいね。」
「会長〜誰ですか?この人たち?」
「ふ、ふ〜ん。誰だと思う?」
会長と呼ばれた女生徒が思わせぶりにウインクをする。
「分からないから聞いてるんじゃないですか〜。」
「あはッ。それもそうね。じゃあ、聞いて驚け〜なんとこの二人はあのナイトオブラウンズなのだぁ〜。」
「「「えぇ〜ッ!!!?」」」
何かこの反応いいな。貴族じゃこんな感じはないし。うん。この学園に入って正解だったかも。
「って事でよろしく、先輩。」
「よろしく。」
「だから〜、今時の高校生は私とか言わないんだぜ。俺の方がジノには似合ってるって。」
「そうなのか?じゃあ、これからは俺って事で。」
「そうそう、その意気!ジノって貴族なのに貴族って感じじゃなくて俺は好きだな。」
「そうかい?私も好きだな。ここの学校。」
「ほらほら〜。また私になってるぜ。」
「あぁ、悪い悪い。癖だな。」
ジノとリヴァルはなんて事のない会話を交わしていた。
「おッ!やっと来たかぁ〜ルルーシュ最近サボり過ぎだってば。」
「すまない。ちょっと用事があってな。落ち着いたらちゃんとチェスにも付き合うから。」
扉が開きその人が入ってくる。
おかしいくらいに心臓がガンガン鳴ってる。どうしよう。顔が見れない。でも、見たい!!
「その二人は?」
ルルーシュは見慣れない後姿の二人を見て…正しくは背が高く金髪の男子生徒の後ろ姿を見て固まった。
嘘だ…こんな偶然があるものか!金髪の下の方で三つ編みにされた髪が3本揺れた。
振り向く。そう思った瞬間ルルーシュは出口へと向かって走り出した。
「えッ?ちょ…ルルーシュ!?」
驚いたリヴァルがルルーシュの名を呼んだと違わず、ジノがその後を追って部屋から出て行った。
「何なの?あの二人。」
会長も興味深々と言った顔で二人の背中を見送った。
そんなはずはない!!今の俺にはジノに会う資格なんてないというのに。
あの頃とは違う。俺の手は赤く穢れてしまったというのに…
期待と不安がルルーシュの胸の中に過ぎる。
必死で走った。久しぶりの全力疾走だった。
もうどれくらい走っただろう。体力の限界を迎え、石に躓きこけそうになる。
「うわぁ!?」
目をつむる。受け身を取る時間はなさそうだ。
「えッ?」
いつまでたっても訪れるであろう衝撃は訪れない。
ルルーシュは恐る恐る目を開けた。
「御無事ですか。ルルーシュ様。」
ルルーシュの下にはジノが居た。
「お怪我はありませんか?」
「な、何で…」
驚きの余りルルーシュは言葉を忘れてしまったかのように一言だけ呟いた。
「やっぱりルルーシュ様なのですね。お会いしたかった。」
ぎゅっとジノに抱き締められる。
その温かさに目頭が熱くなるのをルルーシュは感じた。
「ヴァインベルグ卿、失礼ですが人違いではないですか?確かに私はルルーシュと言う名前ですが…」
「あなた様のジノはここへ戻って参りました。これからはいつまでもルルーシュ様と共に。」
人通りが少ないとは言え、男二人が転んだまま抱き合っている姿というのはやはり滑稽に映るらしい。
周りに人が集まってくるのを感じた。
「ヴァインベルグ卿、一先ずお放し下さい。」
「あぁ。失礼致しました。」
ジノは優しくルルーシュの体を解放すると、手を取り立たせる。
「どこか…話が出来る場所へ行きましょう。」
「それでしたら…」
ジノが携帯を取り出し、どこかへ電話を掛ける。
すぐに1台のリムジンが二人を迎えにきた。
行き先を運転手へ告げると無言の二人を乗せて車は走り出した。
二人とも話したいことはたくさんあった。
ルルーシュはこの状況を把握しようと頭をフル回転させ、ジノはあり過ぎて興奮のあまり言葉を選べずにいた。
音もなく車が停まり、扉が開かれる。
そこは…懐かしい光景が広がっていた。
今は荒れ果てた神社。草が生い茂った庭。奥には朽ち果ててしまった、蔵。
「ルルーシュ様。この場所へ足を運ばれた事は?」
「いや…無かったよ。」
スザクとナナリーと過ごしたこの場所。3人の思い出がたくさん詰まっていた。と、同時にジノとの思い出も…。
ルルーシュには眩しすぎてここへ足を運ぶ事すら出来なかった。
「やはり、ジノ…なんだな。」
ルルーシュがジノの頬を撫でる。
「ルルーシュ様!!」
ジノがルルーシュの身体を抱き締める。
細い肢体。あの頃とは逆転した身長。腕の中にすっぽりと埋まってしまうルルーシュにジノは愛しさが込み上げる。
思いの丈を籠めてルルーシュを抱擁する。
「ジノ…何故ここへ来たんだ?」
「私とルルーシュ様の思い出の場所です。ラウンズへ入ってからも何度か訪れました。」
「そうか…ナイトオブラウンズが今のジノの立場なのだな。」
ルルーシュは渾身の力を込めてジノを押しのける。
普段ならびくともしないであろう身体がよろけた。
「ルルーシュ…様?」
ジノは呆然としてルルーシュの顔を見た。
絶望と怒り、悔しさそんな負の感情を織り交ぜたような顔。でも、寂しくて今にも泣きだしてしまいそうだ。
「俺はあの頃の俺では無い!今の俺にはジノは必要ないんだ。」
そう必要ないんだ…自分に言い聞かせる。ジノは敵になってしまったのだと。
もう一度ジノに抱き締められる。
「ルルーシュ様。私にはあなたが必要なんです。」
優しく。泣いてもいいんだよ。と言われている気がした。
そっとルルーシュはジノの背中へ腕を回した。
溢れだした涙がルルーシュの頬を伝っていった。
「本当にいいのか?ジノ。」
「私はルルーシュ様のお心のままに。」
それからルルーシュとジノは二人で離れていた時間を取り戻すかのように話し込んだ。
時間が経つのも忘れて…あの時、二人でひなたぼっこをしたように…
やっとこの場所へ還ってくる事が出来た。あの夏の約束の場所へ…。
end.