スザクが同じ高校へ通うことになって一週間。
ルルーシュの家へスザクが遊びに来ていた。


「スザク…。もう帰るのか?」
「あぁ。明日も早いし今日は帰らせてもらうよ。」
「そうか。ナナリーが寂しがるな。」

ルルーシュは自分がどんな表情をしているかなんて気づいていないに違いない。

「ルルーシュ。君も寂しがってくれるかい?」
「なッ…誰が…。」

スザクのからかうような言い方にルルーシュは顔を真っ赤にする。

君はいつもそうだ…。
周りの事には頭が働くのに…自分の事となると興味が無いのか…分かって無いのか…

「ゴメン。冗談だよ。」

スザクがクスッと笑うとますますルルーシュは顔を赤くする。

「お前、この7年で随分と性格が悪くなったようだな。」
「ルルーシュこそ。」

お互い顔を合わせて笑い合う。

「スザク。嬉しいよ。また、お前とこうやって一緒にいられる事が。」
「あぁ。僕もだよ。ルルーシュ。」

7年前の事が二人の頭に過ぎる。
決して長い期間一緒に居たわけでは無かったけど、二人にはかけがえのない思い出だった。

「ルルーシュ。」

そっとスザクがルルーシュの手を握る。

「なんだ?」

スザクはその場に膝を立て座ると、ルルーシュの手の甲に口づける。

「今度こそ、君を離さない。守ってみせるから。」
「頼もしいな。だが、俺もお前を守りたいと思っている事は忘れるな。
それから…俺の為にも自分を傷つける事は許さないからな。」
「ありがとう。」

スザクは微笑むとドアを開け外に出る。

「じゃあ、また明日。学校で。」
「あぁ。また明日。」

ルルーシュは閉まるドアを…去っていく後姿を見つめる。


寂しいと。帰らないで傍に居てくれと。言えたらどんなに楽だったろう。


「フッ。俺らしくもない…。」

自分の正体を隠しているのに…本当の事を知ったらスザクは俺から離れていくだろう。
ゼロとして、俺は修羅の道を行くと誓った。
スザクの事を考えるとその決意まで揺らいでしまう。

「お兄様?どうかなさいましたか?」
「あぁ、今スザクを見送っていたところだ。」
「また来て下さいますよね?」

ナナリーが心配そうに尋ねる。

「あぁ。安心していいよ。また来ると言っていた。」
「はい。お兄様。」
「さぁ遅いから寝室へ行こうか。」

ルルーシュはナナリーの車いすを押して部屋へと連れて行く。

「おやすみ。ナナリー。」
「おやすみなさい。お兄様。」

そうだ。全てはナナリーの為に…。




翌日、学校にスザクの姿は無かった。

「また明日と言ったじゃないか。」

放課後の屋上で一人呟く。

「うわッ!!」

ルルーシュは突然後ろから抱き締められて悲鳴を上げる。

「お待たせ。ルルーシュ。」
「だ…ッ誰も待ってなんかいない。」

聞かれたのか?とルルーシュは内心焦る。

「そうかな?僕にはルルーシュの声が聞こえた気がしたんだけど?」
「気のせいだ。スザク。」

そうかな?と小さく呟くスザクに聞こえていなかったみたいだとルルーシュはホッとする。

「それよりいつまで抱きついている気だ!離れないか、スザク。」
「出来ればずっとこのまま抱き締めていたいよ。もう離さないって言っただろ?」
「こッの…馬鹿!!場所を考えろ!場所を!!」

ピクッとスザクが反応する。

「ここじゃなかったらいいんだ。」

きっとスザクが犬なら尻尾を大きく左右にパタパタと振っているだろう。
にんまりと笑うとルルーシュを解放する。
顔を覗きこまれて真っ赤な顔のルルーシュは慌てて顔を反らす。

「そういう意味では無い!!」
「素直じゃないんだから。そこも好きなんだけどね。」

「す…ス…好きだと!?」

ルルーシュは初めて聞くスザクの言葉に驚き素っ頓狂な声を上げる。

ルルーシュ?ひょっとして…気づいて無い?
もしかしてとは思ってたけど…

スザクはがっかりと肩を落とす。

「ルルーシュ?まさか君…。」

スザクは恐る恐るルルーシュに尋ねる。

「すまない。スザク…この展開はその…想定外でだな…。」

やっぱり…昨日守るって言ったじゃないか。そして君も言ってくれた。
僕と君では意味合いが違っていたのかな?

「やっぱり迷惑だったかな?」

迷惑なはずがない。でも、素直になれない俺はスザクに何と答えればよいのか…。
そもそも俺と同じ意味で好きなのかは分かっていない。
不確定要素が多すぎる。あれだけでは情報が足り無い…。

だが…

ルルーシュは目の前の真剣な表情をしたスザクを見る。
スザクの瞳は真剣そのもので冗談だろうと笑い飛ばせる状況では無さそうだった。

「迷惑なはずがないだろう。俺も…スザク、お前の事が好きだ。」
「僕はこんな意味だけど?」

ルルーシュがえっ?と思う間もなくスザクの瞳が近づいてくる。
チュッと軽く触れ、離れる唇。

「ルルーシュは?嫌だった?」

覗き込んだルルーシュの顔は赤く染まっている。
恥ずかしさからなのか、憤怒からなのか…。
俯いてしまったルルーシュからは読み取れなかった。

「お前というやつは…いつも突然過ぎるんだよ。」

キッと顔を上げるとルルーシュはスザクの胸倉を掴み引き寄せ、仕返しとばかりに触れるだけのキスをする。

「ルルーシュ…。」

スザクの腕がルルーシュの首に回り離さないといわないばかりに可愛いだけじゃない大人のキスを与える。
歯列を割り、舌を差し入れ逃げるルルーシュの舌を絡め取る。

「ふ…ッ、んぅ…。」

甘い声がルルーシュの口から漏れる。スザクの胸倉を掴んでいた腕が背中へと回る。

「ん…ッ。ぁ…。」

ガチャッと屋上のドアが開く音がする。
スザクは反射的にルルーシュの手を引っ張り物陰へと隠れる。

「あっれぇ〜?ルルーシュ?スザク?おぉ〜い!!」

おっかしいなぁ?と首を傾げてリヴァルが辺りを見回している。

「んッ…ぅ…。」

く、苦しいッ!!スザク!!俺を殺す気かッ!!

口をスザクの手に塞がれ、ルルーシュはばたばたとスザクの胸の中でもがく。

「見間違いだったのかぁ?どこいったんだか。」

ぶつぶつ呟きながらリヴァルが戻って行く。



「んんんんぅ〜〜ッ!!!」
「あっ!ごめん。」

スザクはやっと今のルルーシュの状況に気付く。

「この馬鹿者ッ!!俺を殺す気か!!」
「そ、そんなつもりじゃ…本当にごめん。」

苦しさの余り涙目でスザクを睨みつける。

「だって…君もさっきみたいな場面で人に会いたくないだろ?」
「そ、それはそうだが…やり方というものがあるだろう。」
「それに今の君の顔を他の人になんて見せたくないんだ。」

スザクの両手に頬を包まれ顔を覗きこまれルルーシュは困惑した表情を浮かべる。

「ルルーシュ。今どんな表情してるか分かってないでしょ?」
「ど、どんな表情だと言うんだ?」
「教えて欲しい?」

鈍感なルルーシュにスザクは苛立ち、意地悪をしたい衝動に駆られる。
内心びくびくしながらも気丈にルルーシュは頷く。

「そう。知ってた方がいいと僕も思うよ。ちょっと場所を変えよう。」

スザクは強引にルルーシュの手を引き、屋上を後にする。

「ちょ、どこに行く気だ?」
「誰も来ない場所。」




あれからスザクは一言もしゃべる事無く俺の手を引いてひたすら歩いて行く。
その行動からスザクが怒っている気がして少し不安になる。
さっきまであんなにも優しかったのに…

ふとスザクが足を止める。

「ここならいいよね。」
「え?」

スザクの言葉は優しいが目が笑っていない。
そこは保健室だった。

「この時間なら誰もいないから大丈夫だよ。鍵もかけておくからさ。」
「そ、そういう問題なのか?」

何故話をするのに保健室でなければならないんだろう?
誰が来るかも分からない場所でさっきの話の続きをするのは流石に抵抗があった。

「話だけなら…お、俺の部屋に行こう。学校では流石に誰が来るかも分からないからな。
屋上での事もあるから絶対という事はないだろうし…。」
「いいの?僕はルルーシュの部屋でも構わないけど。ナナリーがいるんじゃないの?」
「今日は会長や咲世子さんと買い物に出かけてるはずだから…。」

確か…と呟くルルーシュの手を取るとスザクは足早にクラブハウスへと向かった。


ルルーシュの部屋


「スザク。お前、どうしたんだよ?さっきから黙って変だぞ?」
「ルルーシュ…君は自分の事を分かって無さ過ぎだよ!!もっと自覚を持った方がいいと思う。」
「なッ…どういう意味だ?」

スザクの言葉の意味が分からず俺はムッとする。

「ルルーシュ…。」

スザクはベッドへと腰かけた俺の隣に座ると、優しく名前を囁いて顔を近づけてくる。

「スザク…。」

名前を呼んで瞳を閉じる。
スザクの唇が俺の唇に触れ、チュッと音を立てて離れる。
次の瞬間唇を濡れた感触になぞられる。

「…ゃッ…。」

擽ったくて声が漏れる。
僅かに開いた唇の隙間にスザクの舌が滑り込む。
舌を絡め取られ、経験の無いルルーシュはキスに溺れる。
呼吸が苦しくて顔を顰める。

「ん…ぅん…ッ。」

どちらのモノとも分からない嚥下しきれない唾液が口から溢れ、頬を伝う。

「は…ァ…ッ。」

スザクの口付けから解放された時にはすっかり息があがり肺が酸素を求めた。

「ルルーシュ。」

愛しさを籠めて呼ばれた名前。困ったように細められたスザクの瞳。
スザクは立ち上がると机の隣にあった姿見をベッド脇へと移動させる。

「ほら…。見てごらんよ。自分がどんな表情をしてるのか。」

スザクに言われるままにルルーシュは姿見へと目をやる。

そこに映る自分。頬が上気し、僅かに瞳が潤んでいるのが分かる。

こ、こんなの俺じゃない…。

自分の欲情した表情が怖くて姿見から目を逸らす。

「もう僕の前以外じゃこんな顔しちゃ駄目だからね。」
「………ッ。」

俺は頷く事しか出来なかった。

スザクだからだ。と自分に言い聞かせる。

スザクの両手で頬を包み込まれる。自然と視線がスザクと向けられる。

「ルルーシュ。僕は君が好きだ。この7年間一度も忘れた事なんて無かったよ。」
「スザク…俺もお前を想わなかった日は無い。元気にしてるのかといつも心配だったよ。」

まさか軍に入っているとは思わなかったけれど…。
スザクも生きる為に必死だったに違いない。
俺やナナリーもアッシュフォード家に匿われていなければどうなっていたか分からない。

ゼロとしてはファーストコンタクトから拒絶された。
俺からだとしたらスザクは黒の騎士団をゼロを認めてくれるだろうか?
否。それは無いだろう。自分の中のルールに従って生きているスザクにとって、ゼロのやり方はルール違反だ。
拒絶されるに決まっている。


それでも…俺もゼロもお前を求めている。



もう一度二人はどちらからともなく唇を重ねた。




end.


スザルル2